近年、介護業界でもM&Aが活発に行われており、企業成長の有効な手段として注目を集めています。
ただし、M&Aには成功もあれば失敗もあるため、慎重な判断が求められる分野です。
本記事では、M&Aを検討中の経営者の皆さまに向けて、介護業界における具体的なM&Aの成功事例と失敗の傾向について解説します。
また、介護M&Aの相場についても理解が深まる内容となっています。
この記事を通して、M&Aに必要なポイントを見つけることができるでしょう。
ぜひ最後までお読みいただき、新たな事業機会を見つけるヒントにしてください。
介護M&A事例分析①介護施設運営
介護業界とひと口に言っても、その範囲は非常に広いため、この記事では次の3つの領域に分けて説明します。
- 介護施設運営
- 訪問介護・在宅介護サービス
- 介護関連機器・福祉用具販売・レンタル
それぞれの領域について、成功したM&A事例を紹介していきます。
まずは、介護施設運営の領域における成功事例からご紹介します。
ベネッセホールディングスによるプロトメディカルケアの買収
M&Aの実施時期 | 2021年6月 |
M&Aの目的 | 新規エリアへの展開 人材紹介事業の拡大 介護事業の強化 |
M&Aの手段 | 株式譲渡(全株式取得による完全子会社化) |
M&Aの買取価格 | 42億5,000万円 |
このM&Aが成功した主な要因として、以下の点が挙げられます。
- 明確な戦略との一致:ベネッセホールディングスは中長期経営計画に基づいて買収を行い、介護分野での成長を加速させることを目指していた。
- 相互補完的な事業:ベネッセの教育・介護事業と、プロトメディカルケアが提供する介護メディアや人材サービスが効果的に組み合わさり、補完関係を築けた。
- 市場ニーズの把握:高齢化社会における介護サービスの需要増加と、人材不足に対応するための戦略的な判断があった。
- 既存リソースの活用:ベネッセスタイルケアやベネッセMCMとの連携により、グループ全体でシナジーを発揮し、成果を生み出せた。
M&A後の効果
M&A後のプラス面として、以下の効果がありました。
- サービスの拡充:介護事業者向けのメディアや求人サイト、介護サービスの比較サイトなどが新たに加わり、サービス内容が広がった。
- 人材確保の強化:介護職や看護師の紹介・派遣事業が強化され、グループ全体の人材確保に大きく貢献した。
- 相乗効果の創出:ベネッセの教育に関するノウハウと介護サービスが組み合わさり、新しい価値を提供する可能性が生まれた。
ベネッセホールディングスは、このM&Aによって、介護事業の強化と新たな事業領域への進出を同時に実現しました。
高齢化社会のニーズに応えるため、介護サービスの提供だけでなく、人材確保や情報提供といった幅広い分野をカバーする体制を整えています。
さらに、教育事業で培ってきたノウハウを介護分野にも活かすことで、両社の強みを最大限に活用した事業拡大が可能となりました。
介護M&A事例分析②訪問介護・在宅介護サービス
続いて、訪問介護・在宅介護サービスの成功事例についてご紹介します。
ケア21によるソフトケア宮城の訪問介護事業譲受
M&Aの実施時期 | 2023年1月 |
M&Aの目的 | 事業エリアの拡大 顧客基盤の拡大 サービスの充実 |
M&Aの手段 | 事業譲渡(訪問介護事業1拠点の譲受) |
M&Aの買取価格 | 非公表 |
このM&Aが成功した主な要因として、以下の点が挙げられます。
- 地域戦略との一致:ケア21は全国展開を目指しており、宮城県仙台市を新たな拠点として戦略的に重要だった。
- 既存事業との親和性:ケア21はすでに訪問介護事業を展開しており、これまでのノウハウを活用できた。
- 地域特性の理解:仙台市太白区は、ケア21が複数の事業所を展開している地域であり、地域の特性や需要を理解していた。
- 効率的な統合:既存事業所と連携しやすい立地であったため、スムーズな統合が期待できた。
M&A後の効果
M&A後のプラス面として、以下の効果がありました。
- サービス範囲の拡大:新たな地域でのサービス提供が可能となり、より多くの利用者に対応できた。
- 競争力の向上:地域内でのサービス提供拠点が増え、競合他社に対する優位性が高まった。
- 経営効率の向上:近隣事業所との連携により、人材や設備の効率的な活用が進んだ。
- ブランド力の強化:新しい地域への進出によって、ケア21のブランド認知度が向上した。
- 人材確保の強化:より広い範囲から人材を確保できるようになり、事業基盤がさらに強化した。
ケア21によるソフトケア宮城のM&Aは、全国展開戦略と地域密着型サービスの両立を実現した成功事例です。
訪問介護という既存事業の買収により、これまで培ったノウハウを活かし、効率的な統合を実現できたことが成功の要因となりました。
介護M&A事例分析③介護関連機器・福祉用具販売・レンタル
最後に、介護関連機器や福祉用具の販売・レンタル領域におけるM&Aの成功事例をご紹介します。
栗原医療器械店によるセラピの事業承継
M&Aの実施時期 | 2021年1月 |
M&Aの目的 | 営業エリアの拡大 事業領域の拡大 シナジー効果の獲得 |
M&Aの手段 | セラピの介護・福祉用具のレンタル事業を事業譲渡により承継 |
M&Aの買取価格 | 非公開 |
このM&Aが成功した主な要因は、以下の通りです。
- 事業の親和性:栗原医療器械店は医療機器ディーラーとして既に事業を展開しており、介護・福祉用具のレンタル事業と親和性が高かった。
- 地域戦略との一致:セラピは新潟県を拠点としており、栗原医療器械店の営業エリア拡大戦略と合致した。
- 既存ノウハウの活用:医療機器の取り扱いで培ったノウハウを、介護・福祉用具のレンタル事業にも活用できた。
- 市場ニーズの把握:高齢化社会の進展により、介護・福祉用具のニーズが高まっていることを的確に捉えた。
M&A後の効果
M&A後には、以下のプラス効果がありました。
- サービス範囲の拡大:医療機器に加えて、介護や福祉用具のレンタルサービスも提供できるようになり、顧客に対して包括的なサポートが可能となった。
- 顧客基盤の拡大:セラピの既存顧客を引き継ぐことで、新たな顧客層を獲得した。
- 収益源の多様化:レンタル事業という新たな収益源を確保し、事業リスクを分散できた。
- 競争力の向上:医療と介護の両分野でサービスを提供することで、競争優位性が高まった。
- ノウハウの獲得:セラピの介護・福祉用具レンタル事業のノウハウを得たことで、新規事業展開のスピードアップが図れた。
このM&Aは、栗原医療器械店の事業多角化と地域展開を同時に実現した成功事例です。
医療機器ディーラーとしての強みを活かしながら、成長が期待される介護・福祉分野に進出することで、事業の幅を広げました。
さらに、医療と介護の連携を強化し、包括的なヘルスケアサービスの提供が期待されています。
介護事業のM&Aでよくある失敗の5つの傾向
さてここからは、介護業界におけるM&Aで失敗しやすい5つの傾向をご紹介します。
これらのポイントを理解することで、M&Aにおけるリスクを減らし、成功に近づくための手がかりを得られるでしょう。
【介護業界のM&Aにおける失敗傾向】
- 規制対応の不備
- シナジー効果の過大評価
- 財務状況の見誤り
- 企業文化の統合の難しさ
- 人材の流出
それでは順番に紹介します。
介護M&Aの失敗傾向①規制対応の不備
介護業界におけるM&Aで失敗しやすい1つ目の傾向は、規制対応が不十分であることです。
介護業界は他の業界に比べて、法律や規制が非常に厳しく設定されています。
例えば、介護施設の運営には、労働基準法や衛生基準、施設の設置基準など、さまざまな法的要件を満たす必要があります。これらを十分に理解せずにM&Aを進めると、買収後に法的問題が発生するリスクが高まります。
また、地域ごとに異なる規制が存在するため、進出する地域のルールに従わなければなりません。
これを怠ると、罰則を受ける可能性があります。規制違反があれば、罰金や事業の一時停止など、大きな損失を被ることになります。
M&Aを進める際には、法務や規制に詳しい専門家のサポートが欠かせません。適切に規制に対応することで、リスクを最小限に抑え、スムーズな事業運営が可能になります。
介護M&Aの失敗傾向②シナジー効果の過大評価
2つ目の失敗しやすい傾向は、シナジー効果を過大に評価することです。
シナジー効果とは、M&Aによって得られる相乗効果のことを指します。
異なる企業が合併することで、1社では得られない利益や効率の向上が期待されます。しかし、過大に期待しすぎると、思うような結果が得られず、かえってコストが増えることがあります。
例えば、介護サービスを提供する企業が医療機器販売の会社を買収した場合、両事業がうまく連携すると期待することがあります。しかし、実際には業務プロセスや顧客層が異なるため、予想ほどの効果が得られないことがあります。効率化が進むどころか、無駄なコストや時間がかかることも少なくありません。
M&Aを成功させるには、シナジー効果を現実的に評価し、実現可能な目標を設定することが重要です。過度な期待を避け、適切な計画を立てることでリスクを減らすことができます。
介護M&Aの失敗傾向③財務状況の見誤り
3つ目の失敗しやすい傾向は、財務状況の見誤りです。
M&Aを進める際には、買収対象企業の財務状況を正確に把握することが不可欠です。しかし、介護業界特有の収益構造を理解せずに進めると、後々大きなリスクを抱えることになります。
例えば、介護施設の運営では、施設の稼働率や介護報酬が収益の大部分を占めています。これらを過大に評価すると、実際の収益が予想を下回ることがあります。
さらに、買収対象企業が抱える負債や、将来の修繕費、設備投資の必要性も見逃してはいけません。これらを十分に確認せずにM&Aを進めると、買収後に予想外のコストが発生し、経営を圧迫する可能性があります。
介護M&Aの失敗傾向④企業文化の統合の難しさ
4つ目の失敗しやすい傾向は、企業文化の統合の難しさです。
異なる企業が合併や買収を行う際、経営方針や働き方の違いが統合を難しくすることはよくあります。特に介護業界では、サービスの質が直接影響を受けるため、企業文化の違いが 現場に混乱を招くことが少なくありません。
例えば、買収元の企業が効率を重視する一方で、買収された企業が利用者中心のケアを重視している場合、現場のスタッフが戸惑うことがあります。このような文化の違いが従業員の士気を低下させ、結果的にサービスの質を下げるリスクにつながります。
M&Aを成功させるためには、事前に両社の企業文化を十分に理解し、現場に適した統合方法を考えることが重要です。
介護M&Aの失敗傾向⑤人材の流出
5つ目の失敗しやすい傾向は、人材の流出です。
M&A後に経営方針の変更や組織の再編が行われると、従業員が将来に不安を感じ、職場を離れることがあります。介護業界では、経験豊富なスタッフが事業の成長に欠かせないため、人材の流出は大きな問題となります。
特に介護現場では、利用者との信頼関係がサービスの質に直結します。M&Aによる変化がスタッフのモチベーションを低下させると、サービスの質が下がり、人材の流出がさらに進むことがあります。
さらに、退職者が増えると、新しい人材の採用や教育にかかるコストが増加し、事業の安定性が損なわれる可能性もあります。
M&Aを成功させるには、従業員に安心感を与え、彼らのキャリアや待遇について明確に説明することが非常に重要です。
介護M&Aの相場は?事業規模や地域での違いを解説
介護M&Aの相場は、事業規模や地域、施設の種類によって大きく異なりますが、基本的な価格の算出方法があります。
多くの場合、M&A仲介会社は次の公式を目安に価格を算出します。
- M&A相場 = 時価純資産額 + 営業利益の2年〜5年分
時価純資産額とは、企業が保有する資産から負債を差し引いた金額を、現在の市場価値で評価したものです。営業利益に掛ける年数は、企業の成長性や市場での競争力などを考慮して決定されます。
このように、企業の実力や将来性がM&A価格に反映されるのです。
介護M&Aの相場:事業規模と地域の関係
介護業界のM&A相場は、事業規模によって大きく異なります。
首都圏の介護施設の相場は「3,000万円〜1億円程度」と言われていますが、これはあくまで目安であり、案件によって大きく変動します。
小規模な訪問介護事業所では、売上高を下回る価格で取引されることもあり、譲渡価格が「1,000万円〜3,000万円程度」の事例もあります。
一方で、大規模な施設や複数の施設を運営する事業者では、数億円から数十億円規模のM&Aもあります。
地域差も大きく、首都圏や大都市圏では相場が高い傾向にあります。これは、人口密度や高齢化率、不動産価値などが影響しています。
また、有料老人ホームなどは既存施設の買収ニーズが高く、相場も高めになることが多いです。
最終的なM&A価格は、収益性やブランド力などを総合的に評価したうえで、売り手と買い手の交渉によって決定されます。
介護M&A事例分析 まとめ
介護業界のM&A成功事例から、事業の親和性や地域戦略を考慮し、適切な相手を選ぶことが成功の鍵であるとわかりました。
一方で、失敗傾向から、企業文化の違いや規制対応の不備、人材流出など、統合後の課題に対する準備不足が大きなリスクとなります。
ただし、ここで注意が必要なことは、現時点では「成功」あるいは「失敗」であっても、M&Aを長期的な視点で見ると、「成功」が「失敗」に陥ってしまったり、「失敗」に見えていたものが「成功」につながるということもあります。
短期的な視点で評価せず、当初の目的を叶えるために試行錯誤しながら、変化が激しい現代においては、その環境変化に応じて柔軟に戦略を変更し、長期的な視点で、成功を目指す思考が求められます。
つい、M&Aと聞いてネガティブなイメージを持ってしまうかたは、短期的なM&Aの側面だけを見てしまっているかもしれませんので、ご注意を。
今の時代においてM&Aは、成長だけではなく現状維持するためも欠かせない経営戦略のひとつです。
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